革新的な技術、デザインで世界のインテリアシーンを牽引し続けるイタリアのブランド「カルテル」。
4年ぶりに通常開催されたミラノサローネでもカルテルは注目の的。
20年以上、世界のデザイン界を取材してきたジャーナリスト本間美紀さんがその哲学を3回にわたって読み解きます。
INDEX
カルテルが‘’特別な‘’本当の理由
ミラノの街でカルテルはちょっと特別な存在だ。
ミラノメトロのトゥラーティー駅(Turati)そばの街角にある、カルテルミラノフラッグシップストア。
決して大きな店ではないのに、ミラノでデザインを見たい、手に入れたい人なら誰もが立ち寄る場所だ。
なぜならそこでは、ミラノ生まれのブランド・カルテルが、最新のマテリアルやデザイン、カラーを駆使した‘’見たこともないデザインプロダクツ“が並んでいるから。
バイオ樹脂など、最先端の素材から作られた個性的なフォルムの椅子、収納、照明、インテリア小物。ふわりと宙に浮いてしまいそうな、完全透明のチェアだってある。
カルテルには世界中の新素材と新しいアイディアが持ち込まれる。だからここにはカルテルでしか生まれ得ない、デザインプロダクトが見つかるのだ。
惑星のように輝く照明「プラネット」。
壁付のブックシェルフ「カイトシェルフ」。いずれのプロダクトも壁や床に落とす影の美しさに見惚れてしまう。
これなに?と思いながらも、魅了されていく不思議なプロダクトたち。
重厚なソファや端正な椅子が並ぶ、いわゆる正統派のヨーロッパスタイルの家具ストアとは、カルテルはまったく違うブランドなのだ。
いつだってエポックメイキング
カルテルの革新性―その背景は創業者ジュリオ・カステッリに由来する。
カルテルは1949年に創業。化学者出身のジュリオは自動車やレジャー用品、実験道具や生活道具の製造を開始し、その時代にもっとも適した最新素材を追求した。
その一つが当時の最新素材だったプラスチックで、カルテルを象徴する素材の一つとなった。そして今も現在の最新の技術、素材で、生活に求められているものをつくる。それがカルテルというブランド。
収納が円筒状なんて当時はきっとびっくり!
ロングセラーの「コンポニビリ」は1969年生まれ。今なお、トレンドカラーに装われ、世界中で売れている。
さらにここ最近のエポックメイキングなエピソードは、この2つのチェアに象徴される。
フィリップ・スタルクの「ルイゴースト」は完全に透明なチェア。
デザインされた2002年、強化樹脂ポリカーボネートの全盛時代に生まれた。もちろん耐久性もデザイン性も完璧。さらに今ではセルロース由来の環境配慮樹脂に素材がアップグレードしている。
いかなる景色も建築も邪魔せず、溶け込む。最新のプロダクトなのに、そこにあるのは置かれる空間への敬意だ。
同じくフィリップ・スタルクが2019年に発表した椅子「AIチェア」。
これはまさにいま注目のAI技術をいち早く取り入れ、彼のデザイン要素を最適化して生まれたデザインだった。
その記者発表の場で、私はまだまだその先端性についてゆけず、呆気に取られていたことを思い出す。
ミラノサローネの「カルテル詣」
そんな驚きを常に生み出すカルテルだから、毎年4月に行われるミラノ国際家具見本市でも、30万人以上訪れる来場者の大半の足は、まずカルテルに向かい、行列が絶えない。それは「カルテル詣(もうで)」と呼ばれるほど。
2023年の会場では「マイカルテル」と称して、歴代のカルテルのプロダクトと新作がさまざまな発想でコーディネートされたシーンが並んだ。
「自分流にカルテルを使いこなしてみて!」というユーザー目線のメッセージが発信されていた。
一部の写真提供=Courtesy Salone del Mobile. Milano
取材・文=キッチン&インテリアジャーナリスト/本間美紀
Column by Miki Homma (Kitchen & Interior Journalist)
<プロフィール>
キッチン&インテリアジャーナリスト/本間美紀
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの老舗専門誌「室内」の編集部に入社。独立後はインテリア、デザイン、キッチンを俯瞰した取材を続ける。著作に「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」(いずれも小学館)など。ヨーロッパのインテリア、デザインの取材にも強く、イタリア・ミラノサローネ国際家具見本市、ドイツ・フランクフルトメッセなどの公式ジャーナリスト、海外ブランドの本社取材も多数。カルテルの取材は1990年代に始まる長年のカルテルウォッチャーでもある。2023年にはカルテルがメンバーでもある、イタリアブランドのラグジュアリー財団「アルタガンマ」の招待ジャーナリストとして選出される。
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