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【名作デザイン図鑑】名作を継ぐ椅子 Kartell「マスターズ|Masters」

デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。

数ある名作の中から今回は、Kartellの「マスターズ」をご紹介します。

デザイン:フィリップ・スタルク|Philippe Starck|フランス
製造:カルテル|Kartell|イタリア
2010年|ダイニングチェア・椅子

INDEX

  1. もっと深く、胸に響く「マスターズ」誕生の魅力
  2. Masters|マスターズとは
  3. 成功の裏側に秘められたデザイナー生命を掛けた壮大な背景
  4. 「新しさ」と「らしさ」の両方を含む復活の狼煙
  5. スターデザイナーの転機となる名作
  6. 極上のエスプリだけではないスタンダードとしての魅力
  7. それを実現可能にするカルテル|Kartellの革新的な技術
  8. まとめ
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もっと深く、胸に響く「マスターズ」誕生の魅力


プロダクトとしての魅力とは別に、ここでは更に深く「マスターズ」を掘り下げてみたいと思います。「マスターズ」誕生の裏側に秘められた葛藤と復活の決意を紐解きます。
その前に概要を抑えておきましょう。

Masters|マスターズとは


1950年代のミッドセンチュリーに生まれた3つの名作椅子「セブンチェア」「シェルチェア」「チューリップアームチェア」のアウトラインを融合してできたモダンデザインのダイニングチェア。座り心地もよく軽くて丈夫、スタッキングもできて一般住宅だけでなく店舗やパブリックスペースにも数多く採用されています。デザインはフィリップ・スタルク。

製品的な特徴はこれまで様々なメディアでも紹介されています。

関連記事:マスターズの魅力まとめはこちらから
巨匠たちに会えるチェア Kartell"マスターズ"の秘密 Vol.1 座り心地編


成功の裏側に秘められたデザイナー生命を掛けた壮大な背景


時は2008年に遡ります。文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いでデザイナーとしてのスター街道まっしぐらだったスタルクの口から突如発された引退宣言とも取れる言葉は、世界中に衝撃的なニュースとして報道されました。それは、それまでの自身の作品を否定し2年以内の引退を示唆するとてもショッキングな内容だったことを記憶しています。

程なくしてスタルクはKartellから新しい作品のデザインの打診を受けます。「今後のカルテルのアイコンとなり長く愛されるチェアが必要」抜擢されたのがルイゴーストで揺るぎない実績を作って以来蜜月が続いていたフィリップ・スタルクだったのはごく自然なことだったかもしれません。

「新しさ」と「らしさ」の両方を含む復活の狼煙


フィリップ・スタルクは失意と葛藤のなか、今後のスタンダードを目指してチェアのデザインに着手します。そうして出てきたのが、疑う余地の無い名作椅子として知られる3つのチェアのアウトラインを1つの椅子に落とし込んだ「マスターズ」のデザインでした。インテリアやデザインに少し詳しい人であれば容易にイメージできるアウトラインがそこには描かれていました。モチーフを他のデザインから引用する事はあることですが、大胆不敵にも名作椅子から引用された椅子のデザインに、当時デザインを依頼したカルテル側の社内でも物議を醸したと言われています。

スターデザイナーの転機となる名作


結果的にこのデザインはスタルクでしか実現しないものとなりました。大胆で奇抜なアイデア、極上のエスプリ、トップに君臨するデザイナーだからこそ3つの名作とは別の価値を持つ名作として認識されるようになります。既成概念を超えたフォルムで、スタルクは単なるオマージュにとどまらない新境地を見事に切り開きました。マスターズが発表されたのが、2年以内の引退を示唆した2010年だった事も不安を払拭したように写りました。

極上のエスプリだけではないスタンダードとしての魅力


事実、マスターズは単に3脚のアウトラインを重ね合わせただけではなく、重複部分をそぎ落とし、彫刻的な曲線と人間工学を両立させる独自のプロセスで再構築。結果として得られた背もたれと座面の交錯するシルエットが、見る者の記憶にある「名作チェア」の残像を呼び覚ましながら、まったく新しいアイコンとして成立しています。座面には後のスタルク作品に受け継がれる流麗な3次元的な曲線を見ることができます。

それを実現可能にするカルテル|Kartellの革新的な技術


ただ単純にデザイン遊びではないことも「マスターズ」が名作と呼ばれる理由です。プラスチック製の椅子の価値観を一変させた「ルイゴースト」同様、涼しい顔をして鎮座するマスターズにも溢れんばかりのカルテルの革新的な技術が詰まっています。

マスターズは改質ポリプロピレン※を材料にモノコック(一体成型)射出成形によって生産されており、マスプロダクトとしての成功には欠かせない要素が備わっています。奇抜で印象的なデザインだけでなく、爆発的なヒットにはきちんとした実用性の裏付けがあるのです。

※現在はサステイナブルな100%リサイクル素材に一新

・高度な射出成形技術により中空構造を実現し、素材の使用料を最適化し軽量化を達成
・ 一体成型(モノコックボディ)により接着や組み立てが不要で高い耐久性を確保
・複雑な曲面などデザイナーの意図を忠実に再現する精密なデザイン表現が可能
・素材自体のしなやかさが程よいクッション性と安定した接地性を両立
・バッチダイド(素材自体の着色)により鮮やかな発色を実現し、塗装の工程が不要で剥がれる事がない
・均一な成形と高品質、高精度を維持しながらの大量生産を実現
・材料のロスを最小限に抑えたサステイナブルな生産プロセス

まとめ


名作デザインとしての地位を確立した「マスターズ」。今や様々なところで見かけるようになり、たくさんの素敵な実例もシェアされていますが、誕生秘話が語られることはあまりありません。スタンダードなチェア故に見失いがちですが、名作たる所以や、スターデザイナーの転機が隠されている事を知ると更に愛着が湧いてきます。

W53.5/D55/H83cm(SH46cm)

マスターズ

W53.5/D55/H83cm(SH46cm)

オンラインストアで見る
フィリップ・スタルク|Philippe Starck

フィリップ・スタルク|Philippe Starck

フランス人デザイナー、1949年生まれ。
インテリア、家具、照明、建築、日用品、パッケージ、アパレルに至るまで、これまでにありとあらゆる分野のデザインを手掛ける。パリのカモンド美術学校卒業後、ピエールカルダンのアートディレクターを務め、インテリアと家具のデザインを担当。独立後多くのインテリアデザインを手がけ、その活躍ぶりが当時のフランス大統領、ミッテラン氏の目に留まり、1982年エリゼ宮殿のスイートルームのデコレーションを任される。これを機に世界中から脚光を浴び、出世作でもあるパリの「カフェ・コスト」をはじめ、ニューヨークの「ロイヤルトンホテル」、香港の「ペニンシュラホテル」、オランダの「グローニンゲン美術館」など数々のインテリアを手掛ける。代表的なブランドには、カルテル、バカラ、フロス、アランミクリ、アレッシ、グラスイタリア、ディオール、ペリエ、エメコなどが名を連ね、日本では浅草のアサヒビールホール「フラムドール」を思い浮かべる人も多い。

これまでの「名作デザイン図鑑」はこちら。

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