デザインや機能性に優れ、時代を超えて愛される名作家具や照明たち。実用品を超えて芸術作品としても評価されています。
数ある名作の中から今回は、革命的なフロアライト「アルコ」をご紹介します。
アルコ|Arco
デザイン:アキッレ&ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ|Achille & Pier Giacomo Castiglioni|イタリア
製造:フロス|Flos|イタリア
1962年|照明・フロアライト
INDEX
1960年代初頭、社会変革の時代において、流動的で適応可能な生活空間への移行が進んでいました。アルコは、固定された電気配線の制約から解放された自立型ソリューションとして、まさに完璧な答えでした。天井に穴を開けることなくテーブル上に光を届けるペンダントライトの機能。カスティリオーニ兄弟は街灯からインスピレーションを受け、この課題に挑みました。
アキッレの娘ジョヴァンナは、アメリカン・エキスプレス社のインタビューで、父と叔父がパリの歩道に立つ街灯からアルコの着想を得たと明かしています。ベースから光源までの距離は約220cm。ダイニングテーブルの中央に光源が来るよう設置した際、椅子の後ろを人が一人通れる絶妙なバランスを実現した寸法です。この計算は、空間の機能性と美的調和を両立させる緻密な設計思想の結晶でした。
アキッレ・カスティリオーニは1918年、兄ピエール・ジャコモは1913年にミラノに生まれ、共にミラノ工科大学で建築を学びました。戦後イタリアの復興期、彼らは伝統的な手工芸から近代的な工業デザインへと移行する時代を生きました。アキッレとピエール・ジャコモは戦後に生まれたイタリアデザイン運動のアヴァンギャルドを代表し、木材とアルミニウムなど異なる素材を組み合わせた実験的な作品を次々と発表していきました。
アルコのプロジェクトは、1960年代に発展したレディメイドと呼ばれる潮流の一部です。レディメイドは、芸術の形式や美的価値を問い直す「知的な挑発」で、既存の家具を皮肉を込めて更新・再解釈しようとしました。 この思想は、マルセル・デュシャンが開拓した芸術運動に根ざしています。
デュシャンは、芸術家の選択によって日常的な物体が芸術作品の尊厳へと高められると主張しました。カスティリオーニ兄弟も同様のアプローチで、すでに市場にある製品を使いたいと考え、曲げ鋼材のセクションが非常にうまく機能することを発見しました。自転車のサドルを座面にした「セラ」チェアや、トラクターの座席を転用した「メッツァドロ」チェアと同じ文脈で、アルコは工業製品の美学を室内空間へ移植する試みでした。
アキッレは生前、「すべてを真剣に受け止めるプロフェッショナルな病」を嘆き、常に冗談を言うことが自分の秘訣の一つだと宣言していました。 この遊び心こそが、カスティリオーニ作品を貫く精神であり、機能と詩情を融合させる原動力でした。
50kgを超える重量を持つカッラーラ産大理石のベースは、クローム仕上げのボール型シェードと長く湾曲したスチールアームを支えています。「次に対重の問題がありました。すべてを支える重い質量が必要でした。最初はセメントを考えましたが、その後大理石を選びました。同じ重量でより小さいサイズが可能になり、より高い仕上げにもかかわらず、より低いコストになったからです」とアキッレは語っています。
トスカーナ北部で採掘されるカッラーラ大理石は、イタリアデザイン史と密接に結びついています。アルコの超現代的なデザインの一部として、この素材は何世紀もの伝統に敬意を表しながら、そのミニマリストな形態で大胆に型を破っています。
ベース中央の穴は装飾ではなく、ほうきの柄などを通して二人で持ち上げ、移動させるための実用的な工夫です。大理石ベースの角は意図的に面取りされており、ユーザーがランプにぶつかった場合の怪我の可能性を最小限に抑えるよう設計されています。このような細部への配慮が、カスティリオーニ兄弟の思慮深さを物語ります。
アーチは3つの湾曲したスチールセクションで構成され、電気ケーブルの通路としても機能します。ベースから半球形のランプホルダーまで、2メートルの距離にわたってケーブルを導きます。シェードは2重構造になっており、向きを自由にコントロールできます。シェード上部の放熱用の穴は機能的な役割だけでなく、天井方向へ光を拡散させるための構造です。すべての要素が機能的必然性を持ち、無駄のない設計思想を体現しています。
モダンなダイニング空間では、テーブルの端に大理石ベースを配置し、アーチをテーブル中央へ伸ばす配置が最も効果的です。ウォルナット材の天板とレザーダイニングチェアを組み合わせれば、アルコのメタリックな輝きが洗練されたコントラストを生み出します。天井照明を抑え、アルコの直下照明で食卓を演出することで、レストランのような上質な雰囲気が実現します。
リビングでは、L字型ソファの角に設置し、読書スペースを演出する使い方も魅力的です。アーチの調整可能な高さにより、床から最大約241cmまで光を投影できます。重いベースはランプを固定するだけでなく、小さくて魅力的なサイドテーブルとしても機能します。大理石の白とファブリックソファの温かみが調和し、北欧スタイルとイタリアンデザインの融合を楽しめるでしょう。
書斎やホームオフィスでは、デスクの横に配置し、執筆や作業スペースを照らす実用的な使い方も可能です。コンクリート壁や金属製の家具と組み合わせれば、インダストリアルスタイルの空間に知的な温かみを加えられます。アルコのシェードは二重構造で、外側を回転させることで光の方向を調整できるため、用途に応じた柔軟な照明計画が可能です。
2011年、アルコはその象徴的なデザインが認められ、著作権保護を受けました。照明として初めてこの栄誉に浴したアルコは、おそらく歴史上最も有名なランプとなり、長年にわたってデザインアイコンとなり、芸術作品とみなされるようになりました。
現在、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ミラノ・トリエンナーレ美術館、ポンピドゥー・センター(フランス)をはじめ、世界の主要美術館の永久コレクションに収蔵されています。産業製品でありながら芸術作品として評価される稀有な存在。それは、デザインが持つ文化的価値を証明する象徴でもあります。
1962年から1982年の間に、このコレクションの40,000台以上のランプが日本を含む世界中で販売されました。2012年には誕生50周年を記念してLED版がリリースされ、50年間のフロスの歴史とも重なりました。さらに2022年には誕生60周年を記念し、大理石の代わりに無鉛クリスタルガラスを使用した限定版「アルコ K」が登場。伝統を守りながら進化する姿勢は、真の名作だけが持ち得る時間軸を示しています。
2002年に亡くなる前、アキッレは多くの芸術家やデザイナーから最も重要なイタリアの建築家の一人として認められていました。彼の作品は、ダダイズムに例えられることもあれば、初期のポストモダニストと位置付けられることもあります。ユーモアを見るか、優れたデザインの誠実さを見るか。あるいはその両方を見るか。アキッレの創造物は芸術とデザインの世界において、生き続けているのです。
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